日々の臨床⑥:12月22日金曜日<線維筋痛症の著効例:心療内科専門医の立場から>

心身医学科(心療内科、脳神経内科、神経科を含む)

 

<線維筋痛症の著効例:心療内科専門医の立場から>

 

sh

 

線維筋痛症(fibromyalgia : FM)は、新しい疾患ではなく、以前は心因性リウマチ、非関節性リウマチ、結合織炎などと呼ばれていました。

 

FMの病因は、正確には不明ですが、中枢である脊髄を介した脳の機能異常であることが強く示唆されています。

 

 

FMでは痛みのブレーキ経路である下降性疼痛抑制経路(セロトニン系、ノルアドレナリン系)が破綻していると考えられています。

 

また、FMでは中枢の興奮経路が賦活されており、いわゆる痛みアクセル系が制御できない状況になっています。

 

痛みのブレーキ経路の破綻とアクセル経路の制御不能が相まって痛みをさらに悪化させている状態を中枢の感作と呼んでいます。

 

この病態が進行して知覚過敏の極期の病態をアロディニアと呼び、「風が吹くだけでも痛い」、「電車の振動で痛みが増す」と表現されます。

 

 

他の慢性疼痛性疾患である顎関節症歯痛症舌痛症などでも共通の病態と考えられていて、実際に、しばしばこれらの病気を併発します。

 

 

FMでは、多彩な身体症状があらわれるだけでなく、多彩な神経、精神症状が出現します。

 

我が国ではFMの約半数の症例で乾燥症状(ドライアイ、ドライマウス)が認められますが、これは交感神経の緊張によると考えられています。

 

 

機能的MRIの解析で、FMには特異的な脳の機能異常、特に認知機能の異常が報告されています。

 

つまり、FMは運動器系に症状があらわれる身体疾患ではあるけれども原因は中枢が関与しているため、運動器系心身症ととらえることができます。

 

したがって、心身症に対する一般的なアプローチと同様に、薬物療法と非薬物療法が相補的な役割を果たすため、両者を適宜併用することが望まれます。

 

 

FMは人口比で1.7%(200万人)を占め、決して稀な疾患ではなく、むしろ比較的多い疾患です。

 

それにも拘わらずS.Hさんの報告にもあるように<認知度が低く、理解されない病>であることが問題になっています。

 

一般の方ばかりではなく近年までは医師でさえFMの存在を認知されない状況でした。

 

そのために<不安で精神肉体共に疲れ限界寸前!>というのは決して大げさではない表現です。

 

 

FMは、脳の機能異常であるため、薬物療法のみに頼っていては治療効果が上がりにくいです。

 

運動療法(ストレッチ、温水プール治療、太極拳)認知行動療法などが推奨されています。

 

水氣道は、これらすべての要素を統合した治療法であるため積極的な参加を呼び掛けています。

 

とりわけ認知行動療法はエビデンスレベルが高いです。

 

これは慢性痛があっても、達成可能な目標を設定して対処していくスキルを獲得する心身医学療法です。

 

S.Hさんは、今年の10月初旬に高円寺南診療所の初診を受けていますが、それまで毎日10本の煙草を30年間続けていました。

 

喫煙はFM治療にとって有害であることをお伝えすると、きっぱりと禁煙を決意され、直ちに実行してその後も禁煙を継続されています。

 

 

<現在は適切な治療を受けて、痛みも落ち着き物事も前向きに考えられるまでに回復!>

と書かれていますが、禁煙の実行を治療開始早々に成功されたことでもたらされた成果であると考えられます。

 

FMを治すためには、過去のマイナスな感情を切り離して、自らが治療に前向きになることが欠かせません。

 

禁煙の即時決断と実行は、S.Hさんの治療に対する前向きで積極的な意欲の現れであると評価することができます。

 

 

12月12日の受診の際に、痛みは10⇒2、冷えは10⇒4、呼吸困難感は10⇒2、気分のイライラは10⇒2、寒冷蕁麻疹は出現しなくなりました。

 

また、長引いていた睡眠障害による夜間の中途覚醒もほぼ克服しつつあります。

 

そして何よりS.Hを驚かせたのは、2年半ぶりで月経が再開したことです。

 

すでに閉経に達したと考えていたS.Hさんは、閉経ではなくFMによる無月経であったことにようやく気付くことができたようです。