診察室から:12月12日

テーマ:日常診療に役立つヤマト言葉の音(オノマトペ)①

 

 

日本語には、深い情感を表わす語が豊富に育まれてきたという特質があります。

 

それは日本人が深く心にしみわたる豊かな情感を表わす語を好んできたという事情があるのだろうと思います。

 

これは、日常の診療においてとても大きな力を発揮してくれることを、最近になって再認識しました。それをご紹介いたします。

 

 

このオノマトペ(仏:onomatopee、onomatopée)とは擬声語を意味するフランス語です。英語では onomatopoeiaでありオノマトペアとも言います。

 

 

擬声語とは擬音語擬態語の総称のことです。自然界の音・声、物事の状態や動きなどを音(おん)で象徴的に表した音象徴語です。

 

日本語にはこうした音象徴語(オノマトペ)がとりわけ豊かで英語その他の欧州の諸言語より豊富に存在するようです。

 

オノマトペは、言葉の中に潜む音楽的な要素のひとつとして、音色・音感だけで様子や情感を伝えることができます。

 

 

とりわけ日本語のオノマトペの文法上の品詞は,副詞に限らず品詞論的に多様な振舞いをすることがこれまで多数の研究において指摘されています。

 

この事実は日本語のオノマトペが実感を伝える力に秀でた言葉であることと無関係ではないと思います。

 

さらには日本語の起源がオノマトペに発したものとする見解も可能足らしめているのではないかとも考えます。

 

石黒広昭(1993)もオノマトペの発生が言語起源論にかかわることに着目していました。

 

石黒は言語の起源を「自然の叫び声」から「模倣音」にかわることとし、最終的に「共同の同意」に基づいて「音声の文節化」が行われると述べています。

 

石黒広昭1993「オノマトペの発生」(『言語』第 22 巻第 6 号)

 

 

それでは、なぜヤマト言葉の音そのもので様子や感じが伝わるのでしょうか。

 

ヤマト言葉には言霊(ことだま)が宿っているとはこのことなのでしょうか。

 

 

科学的に見方をすれば擬音語の場合は聴こえる音を聞こえるままに仮名で書き起こしていることで説明がつきます。

 

しかし、擬態語の場合はどうでしょうか?なぜ私たちは同じ痛みでも、「きりきり」は刺すような鋭い痛み、「ずーん」は重苦しい鈍い痛みだと感じるのでしょうか?

 

 

この主観的な感覚表現の違いは、痛みを中枢神経系である脳に伝える末梢神経の種類の違いに対応しています。

 

感覚は末梢神経の太さによって、いくつかに分類され、それぞれ伝える刺激が違います。

 

痛みの刺激を受け持つのは、少し太めのAδ線維と細いC線維です。

 

Aδ線維は痛みを一瞬で感じ取り、素早く中枢神経に伝え、C線維はやや遅れて痛みの刺激を送ります。

 

ケガをした時、「イタッ!」と反射的に痛みが走り「きりきり」と刺すように痛むのはAδ線維、しばらくして湧いてくるジーンと焼けるような、あるいは「ずーん」とする重苦しい鈍い痛みあるいは痛みはC線維が脳に伝えるからです。

 

日々の臨床12月11日もご参照ください