日々の臨床 ⑥:11月10日 金曜日<音楽療法:聖楽院の役割>

心身医学科(心療内科、脳神経内科、神経科を含む)

 

<音楽療法:聖楽院の役割>

 

 

音楽療法とは、音楽のもつ生理的、心理的、社会的な作用を、心身の障害の回復、機能の維持や改善、さらには生活の質の向上に向けて、音楽を意図的に、計画的に活用して行われる治療技法です。

 

つまり、音楽療法は心身医学療法の一つとして理解することができます。

 

 

音楽療法は発展途上にありますが、過日お亡くなりになった日野原重明先生が名誉理事長であった日本音楽療法学会は中心的な役割を果たしていて、すでに多数の音楽療法士を認定しています。

 

通常、音楽療法士が専門の医師と協力して患者の行動の変化を目標として行う教育的、治療的活動です。

 

 

しかし、実際の仕事内容としては、おもに福祉の場面や医療の場面が多く、身体や精神上の障害を持っている人に対して、その対象者の状況に合わせた音楽的プログラムを組み、音楽を歌ったり、聞かせたりなど、音楽の持つ力を生かしたリハビリテーションを行い、障害の回復や生活の質の向上が図られているようです。

 

 

今年の4月に発足した聖楽院は、いわゆるクラシック音楽の声楽曲を題材として、声楽のもつ生理的、心理的、社会的な作用を、心身の障害の回復、機能の維持や改善、さらには生活の質の向上、社会復帰や社会貢献を通しての自己実現や自己超越に向けて、クラシック音楽のもつ芸術性を尊重しつつ、創造的、計画的にこれ活用して行われる教育的で啓発的な治療技法です。

 

 

日本音楽療法学会の立場と最も大きく異なるのは、聖楽院の音楽療法の対象は心の病気に限定しないことです。

 

そして治療目標として自己実現にとどまらず自己超越を志向する点にあります。

 

そのためには、芸術性の向上を犠牲にせず、最大限これを活かせるように導くことが不可欠だと考えています。

 

 

また、音楽療法に関わる専門の医師について、私はわが国ではまだ、その位置づけが不明確であり、音楽療法専門医のような制度も知りません。

 

聖楽院では“聖楽療法医”構想があります。療法医は専門医ではなくてよいのですが、いくつかの条件が求められます。

 

 

まず臨床医であること、特に心身両面での診療に従事している医師であって、みずから音楽を愛好し、計画的に訓練し、演奏活動を行うに当たって職業音楽家とも良好なコミュニケーションが取り、協議の上でコンサート・プログラムを作成できること、などです。

 

 

聖楽院での具体的な実践指針について、以下にご紹介いたします。

 

 

①音楽療法士ではない一般の職業演奏家の協力によって公開レッスンに参加したりや内部コンサートを開催したりすること、

 

②協力演奏家は、あくまで伴奏家あるいは演奏家として関与することとし、特段セラピーを意識しないようにすること、

 

③患者としてセラピーに参加するのでなく、あくまで受講生としレッスンに参加すること、

 

④姿勢、呼吸、発声など医学的な観点からのアプローチを行うこと、

 

⑤基礎教材は、声楽練習曲(コンコーネ50、トスティ50)を採用し、独自に小倉百人一首の歌詞を配したオリジナルな材料を用いて、声楽の芸術的基礎をしっかりと身に着けること

 

⑥少人数制レッスン制を基本として、補助的に個人レッスン制を併用すること

 

⑦不特定の多数を対象とするのではなく、参加者の芸術表現者としての適性や可能性を考慮し、能力に応じたクラス分けを行うこと

 

➇公開の場で音楽表現をする経験を味わうことができるように導くこと