日々の臨床 ②:11月6日 月曜日<いまさら聞けない?風邪症候群の話>

総合医療・プライマリケア

 

<いまさら聞けない?風邪症候群の話>

 

 

「先生は何科のお医者さんですか?」

 

これ、あいさつ代わりに良く尋ねられる質問です。

 

<内心では何科でもいいじゃないか(内科)!>と感じながら、

 

「いちおう内科です。」と答えたりするのです。

 

 

いちおう、と言ってしまうあたりが素直でないと自分で反省します。

 

それでも、よく若者同士の合コンなどで、出身大学を尋ねられて「いちおう東大ですが。」と答えるときの気分とはかなり違っているようで、少し似ているところがあるかもしれません。

 

 

なぜ、いちおう、と言ってしまうのか。それは、質問者のその後に予想されるリアクションなり、やり取りが気になるからです。

 

 

なぜ、医者はただの医者ではいけないのでしょうか。

 

 

たとえば相手が弁護士であれば、「何科の弁護士さんですか」と尋ねる人はいるでしょうか。

 

せいぜい「民事系ですか刑事系ですか」と尋ねる人はいてもおかしくはないでしょうが、これもわかった風な素人さんの質問のようでうっとおしそうです。

 

 

「いちおう内科医です。」と答えると、次はこうです。

 

「そうですか。そしたら風邪ひいたら診てもらいますね。」このパターンが70%強です。

 

このような挨拶を受けて喜ぶ内科医を私は知りません。

 

本物の臨床医は決して風邪を軽く扱いませんが、内科医の役割をご存じない素人さんは明らかに軽く見ています。

 

次に多いのは「内科でしたら、何が専門ですか。」という御質問です。

 

 

内科医はただの内科医ではいけないのでしょうか。

 

そこで私は「ただの内科医ですが、何か?」と答えても良いのですが、気が小さいのでそこまでの勇気はありません。

 

「はい。アレルギー、リウマチ、東洋医学と心療内科の専門医です。」と馬鹿正直に答えると、

 

今度は少々呆れ顔で「随分、幅広く、手広くやっておいでですね。」といったお返事を賜ります。

 

 

おそらく内科の診療所の外来で最も多いものが、風邪症候群(以下、かぜ)とされています。

 

高円寺南診療所では、心療内科が前面に出ていた頃は、半年以上も全くかぜの患者さんが受診されないこともありました。

 

その代り、精神科の先生に出禁になった、予約を待てない、おまけに金もない、といったタイプのパーソナリティ障害(人格障害)の方が大挙して受診され、たっぷりと一生分の人生勉強をさせていただいたこともあります。

 

心療内科専門医は内科医の資格が無ければなれないのにもかかわらず、かぜすら診れないメンタルドクターという誤解を受けているのは明らかでした。

 

専門医志向、大病院志向、しかも専門性を理解していない受診者が大半だとすると、この国の医療に明るい未来はあるのだろうか、という自問自答の日々もありました。

 

 

さて、本題の戻ります。かぜ、恐るべし!です。

 

高円寺南診療所のかぜ診療のポイントは、

①かぜの鑑別、

②アレルギー合併の有無の確認、

③抗菌薬使用の適応、です。

 

 

かぜを鑑別するには、田坂の分類というものがることを、実は、最近知りました。

 

そして、改めて納得できたのは、私自身がまとめた分類とほぼ同じであるということです。列記してみましょう。

 

 

1)非特異性上気道炎型(ウイルス性)

 

2)鼻炎型(急性鼻・副鼻腔炎型)大半はウイルス性、アレルギー性鼻炎の合併も少なくない

 

3)咽頭炎型(急性咽頭・扁桃炎型)ウイルス性が多いが、細菌性も

 

4)気管支炎型 90%以上がウイルス性だが、気管支喘息の合併も

 

5)高熱のみ型(インフルエンザ型)敗血症の可能性もあるが、安易な抗菌薬投与はむしろ厳禁

 

6)微熱・倦怠感型(急性・慢性)肝炎、心内膜炎、膠原病、甲状腺炎、悪性腫瘍、心身症・精神疾患等

 

7)その他 発疹型、急性胃腸炎型、髄膜炎型、関節痛型、等

 

 

いかがでしょうか。抗菌薬を必要とする病態は細菌感染によるものですが、

 

ほとんど抗菌薬が効かないウイルス性、アレルギー性であるため、抗菌薬の使用機会はかなり限定されます。

 

もう一つ、かぜはまさに万病の元でありますが、アレルギー専門医にしてリウマチ専門医であることが、かぜの診療に以下に役立つかはご理解いただけるのではないでしょうか。

 

また、抗菌薬が無効なウイルス性のかぜのほとんどに漢方薬は役にたつので東洋医学・漢方の専門医でもあることは自信につながりました。

 

さらに、心因性のかぜ(心のかぜ)というのも存在するので、心療内科専門医としての力量も発揮できて良かったと思います。