日々の臨床 ⑦:11月4日 土曜日<血(けつ)とは何か?>

東洋医学(漢方・中医・鍼灸)

 

<血(けつ)とは何か?>

 

血とは何かを理解するには、血の働きを説明させていただくことが便利です。

 

血は全身を巡り、五臓六腑ならびに諸組織を栄養・滋潤する作用を持っています。

 

 

最初に、中医学的な表現でご紹介しますので、少しわかりにくいかと思いますが、それと並行して現代医学的に解説いたしますので、少しだけ辛抱してお読みください。

 

 

まず、①食物は脾胃で運化され水穀の精微と津液となり肺に送られます。

 

<食物は胃・小腸で消化・吸収され、また肝臓や膵臓で代謝されて、飲食物由来の栄養素と体液となって肺に送られます。>

 

 

ついで②呼吸によって取り込まれた天空の清気と合することによって元気が構成されます。

 

<呼吸の吸気によって取り込まれた外気中の酸素と結合して元気を生みます>

 

 

さらに③元気の一部は脈中に入り営気となり、脈中で営気の一部が紅色の栄血に変化します。

 

<元気の一部は血管やリンパ管などの脈管の中に入り営気となり、その一部が(赤血球中の血色素:ヘモグロビン、と結合して)血液となります。>

 

 

前回(先週)は<気とは何か>についてお話しましたが、気と血は相互に依存し、共同して人間の生命活動を支えています。

 

気は<陽>の性質によって人体を温め、血は<陰>の性質によって人体を潤します。このことを漢方医学では気血同根といいます。

 

 

水氣道を例に挙げて説明すると、理気航法と調血航法は相互に補完し合いながら、共同して水氣道の稽古活動およびその効果を支えています。

 

理気航法は<陽>の性質によって参加者の心身を温め、調血航法は<陰>の性質によって参加者の心身に潤いを与えます。

 

ですから、理気航法に熟練すると身体が温まるばかりでなく、心も温まります。

 

つまり、理気航法は<陽>である<気>を心身に取り込むことによって、文字通り、陽気になるということです。

 

これに対して、調血航法に熟練すると身体が潤うばかりでなく、心も潤います。

 

つまり、調血航法は<陰>である<血>を総身(心身)にくまなく巡らせることによって、脳も内臓も筋肉にも十分な栄養を届けることができるようになるということです。

 

 

さて、このように大切な働きを持つ<血>が病むことがあります。血の病変の主なものは、

①血虚(ケッキョ)、

②瘀血(オケツ)、

③血熱(ケツネツ)です。

 

頻度として多いのは①血虚ですが、慢性的な難病でより重要なのは②瘀血です。

 

 

①血虚とは、体内の血が不足するか、血液の濡養作用(心身を潤す作用)が減退するものです。

 

診察すると、舌診で舌が淡白色(淡紅色が望ましい)で萎縮性、表面に裂紋(溝)など、脈診では沈・細(脈が細くて、しかも触れにくい)などが特徴です。

 

 

<血虚の症状>

 

1)顔色が悪い。皮膚が乾燥して荒れる。脱毛。

 

2)爪の変形・異常。手足のあかぎれ。

 

3)筋肉のけいれんやこむらがえり

 

4)月経不順・過少月経

 

5)めまい感、立ちくらみ、あくび

 

6)眼精疲労、耳鳴り

 

7)集中力低下

 

 

血虚の治療方針は補血といって、血を補います。

 

そのための漢方の薬剤を補血剤といいます。漢方薬では補血剤として四物湯、当帰飲子、七物降下湯、芎帰膠艾湯が代表的です。

 

 

補血剤の材料となる生薬は主に地黄(じおう)、芍薬(しゃくやく)、当帰(とうき)、阿膠(あきょう)、竜眼肉(りゅうがんにく)、酸棗仁(さんそうにん)などです。

 

高円寺南診療所では、皮膚のアレルギー、とりわけ肌がガサガサして痒みを訴えるアトピー性皮膚炎の方を<血虚>と見た立て当帰飲子(当帰・地黄・芍薬をはじめ11種の薬味からなる)を処方して優れた成績を上げていま)す。

 

 

②瘀血とは、全身に血流が滞るか、局所に血液が停滞する病態です。

 

この病態は、炎症による組織的変化をもたらします。

 

炎症は血管の変化・動脈硬化、血液凝固亢進、うっ血・多血症あるいは月経、妊娠、出産等に伴う諸変化はすべて瘀血の症状です。

 

診察すると、下腹部の抵抗・圧痛、下腹の張りがあり、腹部膨満感や便秘を確認することが多いです。

 

 

<瘀血の症状>

 

1)顔が赤~赤黒い。目の充血。

 

2)爪甲がどす黒い(暗紫~暗赤)。

 

3)静脈怒張・蛇行、毛細血管拡張、

紅斑・出血(血便・血尿・子宮血性帯下)

 

 

4)冷え・のぼせ(熱感)

 

5)頭痛・頭重、肩こり、胸苦しさ・鋭い痛み、動悸

 

6)左上半身、右下半身の異常

 

7)不眠・嗜眠

 

 

瘀血の治療方針は駆瘀血といって、静脈系のうっ血状態、あるいは微小循環障害の状態から解除します。

 

そのための漢方の薬剤を駆瘀血剤といいます。漢方薬では駆瘀血剤として桂枝茯苓丸、桃核承気湯、通導散、治打撲一方が代表的です。

 

駆瘀血剤の材料となる生薬は主に桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、紅花(こうか)、地黄(じおう)などです。

 

高円寺南診療所では、慢性的な病気には必ずと言ってよい程、瘀血を伴っていることから、まず桂枝茯苓丸をよく処方し、体質によって、桃核承気湯、通導散などを使い分けます。

 

また、関節リウマチ、骨粗しょう症などの患者さんや、屋外でのお仕事に従事されて怪我の絶えない方の打撲には、治打撲一方が役立っています。

 

治打撲一方とは打撲の治療の決定的処方、という意味になるようです。

 

 

また、高円寺南診療所の鍼灸師である坂本光昭氏が、西洋医学では治療困難な多くの難病を見事に治せているのは、針治療での瘀血治療の名手だからです。

 

坂本氏の針治療を併用すると、漢方薬の駆瘀血剤の効き目も向上します。

 

 

また、水氣道の調血航法は、漢方薬の駆瘀血剤、坂本鍼灸師の針治療とならんで、瘀血の治療に対して効果絶大です。

 

なぜなら、調血航法の調血とは、血流を改善させ、静脈系のうっ血状態、あるいは微小循環障害の状態から解除することに他ならないからです。

 

水氣道は水中運動であるため、調血航法に限らず、静脈系がうっ血しがちな下半身全体に及ぶ水圧による自然的な加圧トレーニングを行っていることになります。

 

重力に逆らって下半身の静脈血を心臓にまで戻していくためには、下半身の筋肉のリズミカルな収縮が必要です。

 

「足は第二の心臓である」という言葉は、身体機能の大事な本質の一つを捉えた表現だと思います。

 

調血航法は、下半身のリズミカルな有酸素的筋肉運動によって、心臓や血管を鍛え、

 

さらに下半身の筋肉も鍛えることによって、自然療法であるにもかかわらず大きな治療効果を発揮できる理由の一つがここにあるワケです。