心身医学科(心療内科、脳神経内科、神経科を含む)
<身体表現性障害:誤解されやすい不可解な病名!?>
身体表現性障害とは、症状を説明できる資質的な異常所見に乏しく、心理的要因によって身体症状に影響が出ている種々の障害の総称です。
ヒステリー、ブリケ症候群、心気症、心気神経症、醜形恐怖、神経衰弱、自律神経失調症、心因性疼痛などと呼ばれてきた疾患の多くを含む概念です。
<臨床上の特徴>
「身体化障害」、「心気症」(もしくは「心気障害」)、
「疼痛性障害」(もしくは「持続性身体表現性疼痛障害」)、「その他」の4つに分類されます。
「身体化障害」の特徴は、圧倒的に女性に多い、成人早期に発症、病状の多発性・反復性・可変性の身体症状が多年にわたり持続することです。
「心気症」は、男女を問わず、比較的限られた数の重篤で進行性の身体疾患に罹患している可能性についての頑固なとらわれが特徴です。
「疼痛性障害」は、痛みにより生活機能障害を引き起こし、その発症、重症度、悪化あるいは持続の因子とあいて、心理的要因が重要な役割を果たしているのが特徴です。
<検査所見>
一般に、患者さんの症状を裏付ける臨床検査所見の裏付けが乏しい点が特徴であるとされています。
しかし、高円寺南診療所が蓄積してきた多数の「疼痛性障害」の経験例のデータからは、心理的要因と一般身体的疾患の両方に関連した病理が明らかになることが少なくありませんでした。
一例を挙げれば、線維筋痛症患者の頸椎の異常
(ストレート・ネック、スワン・ネック、変形性頚椎症、子骨粗しょう症など)
や腰椎の椎間板ヘルニアなどは日常的に見出されています。
<診断のポイント>
最も重要なのは除外診断であり、患者さんの症状の原因となっている身体疾患を見逃さないことです。
線維筋痛症の患者さんが精神科専門医に「身体表現性障害」もしくは「持続性身体表現性疼痛障害」と診断されることで、患者さんの適切な治療が阻まれていた多数例を経験しています。
逆に、身体症状の目立つ患者さんであっても、精神疾患として気分障害、不安障害、発達障害、認知症などが背景にあることに興味も関心も持たない、したがって気づこうともしない整形外科専門医が大多数のように思われます。
心身両面で病気を診ていこうとする立場は、医師のみならず患者にとっても大切な態度だと思います。
その立場に立たない限り、以上の病態を鑑別・除外することができず、妥当な診療方針に辿りつつくことは困難を極めることでしょう。
<経過と予後>
いずれのタイプであっても、一般に症状は慢性に経過することが多いです。
決して治らない病気ではないのですが、治りにくい患者さんのタイプがあります。
①知的障害を伴う方、
②物質依存(タバコ、アルコール、薬物など)を伴う方、
③心因の関与を頑なに否定して内省に欠ける方、
④自分自身の医療費の支出を渋る方
<治療>
治療開始前に、病名、状態、治療方針、経過の予測などを患者さんが理解できる範囲で説明し、同意を得ることが大切だと考えています。
しかしながら、他の多くの病気とは異なり、そのための手続きには相当の時間と労力が掛ることをご理解いただきたいと思います。
精神科的なアプローチだけでも医療者側の負担が大きいうえに、身体的(内科的、整形外科的など)なアプローチも必要です。
そのうえ、これらを総合し、さらに体系的に統合していくためには高度な専門性と処理手続きが必要となります。
診断手続きから初期治療までの間に、求めに応じて診断書を作成し、職場に提出することが日常的に行われますが、この診断書作成は、とても重要な意味を持っています。
家庭や職場という生活空間を共にし、直接的な係りをもつ人々に、きちんと病状を理解していただくことが、病気の治療の進展に大きな影響を及ぼすからです。
他者からは理解されにくいばかりでなく、仮病であるとか、怠慢であるとか、甚だしい誤解に苦しんでいる間は、治療は進捗しないからです。
診断書は、職場での上司のみならず、職場を担当する産業医との協力体制樹立のためにも有効で、たとえば、休職して治療に専念し、その後、段階的に職場復帰するプロセスにおいても大きな役割を果たします。
初診時に発行され「うつ病」とか「身体表現性障害」とかの診断名と休職期間のみが記載されているような程度の診断書には、大きな期待はできないとお考えください。
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