日々の臨床⑦:10月28日 土曜日<気とは何か?>

東洋医学

 

<気とは何か?>

 

気という病理観は、わが国の漢方(古方漢方)にも、中国伝統医学(中医学)にもあります。

 

中医学では“気”を“血”、“水”と共に全身を、くまなく巡り人の生命活動を支える基本物質としています。

 

これに対して古方漢方の大家である吉益南涯は、“気”は形がなく働きだけがあるもの、としています。

 

つまり、“気”とは物質ではなくエネルギーであると捉えているようです。私は、南涯の説に賛同しています。

 

 

南涯によると、“気”は総ての生命活動を司る生体エネルギーであり、

 

血や水を全身に巡らせ、栄養を身体の隅々にまで送る原動力です。

 

 

この考え方を受け入れてみると、“気”の働きの障害によって血や水の働きが阻まれることは理解しやすいです。

 

 

たとえば、気力に乏しいものを<気虚(ききょ)>といい、

 

気の巡行が障害されたものを<気滞(きたい)>と呼びます。

 

 

<気虚>とは、元気の不足や気の消耗によってもたらされます。

 

その場合の全身症状は、虚弱と無力です。気虚が進行すると、

 

生命維持に必要な熱(体温)の産生が低下し、これを<陽虚(ようきょ)>といいます。

 

気は陽に属するからです。

 

 

気虚の原因は、慢性病、加齢、先天的虚弱、脾胃(消化器系)の障害、栄養不良、過労、消耗などです。

 

 

以下に、気虚の患者さんはすぐに見分けがつきます。

 

 

まず目力が弱い表情で、声が小さいです。

 

舌を診ると湿っているだけでなく腫れぼったい。

 

脈は柔らかく弱い。腹部は軟弱です。

 

 

気虚の症状をリスト・アップしてみます。

 

1)特徴的な訴え(全身症状):身体がだるい、疲れやすい、すぐ眠くなる、気力がない

 

2)消化器系:食欲不振、腹満感(食べるとすぐに腹が張る)

 

3)呼吸器系:かぜをひきやすい、かぜがなかなか治らない

 

4)神経系:物事に驚きやすい

 

 

なお、気虚の特殊なものには<気陥(きかん)>があります。

 

これは本来上昇すべき気(脾気)が逆に下陥するものです。

 

内臓下垂、脱肛、習慣性下痢などの症状として現れます。

 

 

治療方法は、補気、すなわち不足した気を補います。

 

 

漢方薬では気剤のうち補気剤(人参、黄耆、炙甘草などの生薬を主体とする漢方薬)、

 

鍼灸では補法、水氣道では理気航法の補陽・補気術です。

 

 

<気滞>とは、気の円滑な流通が障害されていること。

 

それによって関連する臓腑や経絡に病変を起こすものです。

 

また、人体のどこかで病変が起こると、気の流通が妨げられるので気滞が生じます。

 

人間の感情は肝の疏泄作用によって支配調節されているので、

 

精神的ストレスなどで肝に気滞を生じることがあり、特に<肝氣鬱結>と呼んでいます。

 

気滞の主な症候は、局所の疼痛です。

 

 

気滞の症状

 

1)特徴的な訴え(全身症状):停滞感(滞り,詰まり)

 

2)神経系:氣の巡りの悪さ(自律神経失調、ノイローゼ、不眠)

 

3)呼吸器系:咳、くしゃみ、鼻づまり、声かれ、ため息、あくび、いびき

 

4)大腸:腹部膨満(感)

 

5)四肢:痛み、麻痺、しびれ感

 

6)皮膚:多汗、皮膚のかゆみ・皮膚病

 

 

なお気滞の特殊なものに<気逆(きぎゃく)>があります。

 

気逆の症状

 

1)頭痛、めまい、

 

2)のぼせ、赤面・顔面紅潮

 

3)目の疲れ、目に力が無い

 

4)難聴

 

5)動悸(緊張、興奮してドキドキする)、精神不安、神経質、イライラ

 

 

治療法は、理気、すなわち気の流れを整えます。

 

 

漢方薬では気剤のうち理気剤(柴胡、香附子、薄荷、紫蘇葉、半夏、陳皮、厚朴、桂皮、枳実などの生薬を含む方剤)、

 

鍼灸では理気法あるいは瀉法、水氣道では理気航法の宣発・調気術です。

 

 

なお、理気薬の特徴としては香りが強く、香辛料や料理のスパイスに使用されるものが多いです。

 

たとえば、紫蘇葉は食用でも使われるシソの葉、陳皮はミカンの皮、さらに薄荷はミントです。

 

そこで、アロマセラピーは理気薬として使用することも有益だと思います。