日々の臨床⑤:10月19日木曜日<超高齢社会におけるリウマチ・膠原病>

総合リウマチ科(膠原病、腎臓、運動器の病気を含む)

 

<超高齢社会におけるリウマチ・膠原病>

 

 

参考:日本内科学会誌106:2115~2117,2017

 

日本内科学会誌という医学雑誌は、私が熟読している医学雑誌の一つです。

 

昨日、このコラムを書く準備をしていたところ、デスクの上にこの雑誌(特集:高齢者におけるリウマチ・膠原病のマネジメント)が置いてありました。

 

この何でもない気配りの御蔭で私の日々の臨床が捗っている訳です。アリガトウ野口さん!

 

 

この特集のトップを飾るのは慈恵医大リウマチ・膠原病内科の黒坂大太郎先生の論文です。

 

そもそもリウマチ・膠原病というと専門医の私ですら、若い世代あるいは中年の女性が頭に浮かびます。

 

しかし、最近では高齢になってから発症する患者さんを拝見するケースが増えているのに気が付いていました。

 

この高齢者に対して、若年者と同じように、つまり診療ガイドライン通りの診療を行うことはできないので、諸々の現場の工夫を凝らしてきました。

 

まさに、そのことを指摘した黒坂論文に敬意を表します。

 

ただし、このタイプの論文に多い、とても残念なことは問題提起と将来に向けての学術発展の希望的観測に終始しがちである傾向です。

 

 

 

まず高齢発症者に対して特別な配慮を要する理由を挙げてみましょう。

 

1)高齢者において慢性炎症と免疫機能低下が同時に進行している

 

2)高齢リウマチ・膠原病患者は他の疾患を多く合併している

 

 

高齢者では、免疫機能が低下したことにより炎症が起こっている可能性があるため、免疫機能を調節して、炎症を抑える治療方法が理に適います。

 

しかし、現時点では高齢者の膠原病・リウマチ領域の治療法は、若年者と同じステロイドと免疫抑制薬が中心であり、

 

しばしば日和見感染等を合併させるため理に適っていないという負い目があります。

 

生物学的製剤が関節リウマチで使われますが、ニューモシスティス肺炎等の感染リスク因子として「高齢者」が入っています。

 

各種ガイドラインも公表されていますが高齢者特有の病態に対応できているものはほとんどありません。

 

 

高齢者で一番問題なのは腎障害だと考える専門医は少なくありません。

 

リウマチ治療薬の中心はメトトレキサートですが、腎機能が低下している場合には、この薬の投与量を減らさなければなりません。

 

私は、腎臓よりも問題になるのは肺だと考えています。

 

腎臓の場合は腎不全になっても透析という方法がありますが、肺にはそれに代わるものが無いからです。

 

 

そこで高円寺南診療所では、肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンの接種を勧めています。

 

とくに肺炎球菌ワクチンに関しては、最近はニューモバックス®とプレベナー®を組み合わせて接種するように説明していますが、

 

肺炎の既往があったり、呼吸器感染のリスクが高かったりすることを理解しているにもかかわらず、

 

プレベナー®の接種を拒む方が少なくないのは残念なことだと感じています。

 

 

せっかく素晴らしい問題提起をしている論文であっても、将来に向けての学術発展の希望的観測に終始しがちである傾向は残念でなりません。

 

なぜそのような傾向が続いているのでしょうか。

 

 

その理由は、医学・医療界が薬物療法中心の発想から脱却できていないからに他なりません。

 

そして、次々と診断や治療のマニュアル(ガイドライン)を出して、しかもガイドラインがすべてではない、という立場を取ろうとします。

 

その実、ガイドラインから少しでも外れると、臨機応変な判断が不可能になりがちだからです。

 

 

生活習慣の改善をはじめ非薬物療法である物理療法(鍼灸医学を含む)や運動療法(水氣道®)、

 

必要に応じて心理療法(自律訓練法、認知行動療法)、

 

場合によっては免疫力を高める音楽療法(聖楽院にて実施)は高齢者の免疫力を調整して炎症を抑制すると同時に、

 

膠原病・リウマチに合併する多くの症状に対しても有益である可能性があります。

 

すでに実績を積み重ねていますが、広く認知されるには至っていません。

 

その最大の理由は、専門医ばかりでなく大多数の患者さんまでが

 

「非薬物療法などで改善するはずがない」と思い込んでいるからです。

 

 

高円寺南診療所の使命は、大學病院等とは異なり将来へ向かってのガイドラインによる薬物療法の展望を語ることではありません。

 

その方向ではなく、現に目の前で困っている患者さん、

 

高齢などガイドラインから外れてしまっている目の前の現実の患者さんに

 

何らかの個別具体的な手立てを考え、実践していく臨床にことにこそあると考えています。

 

 

膠原病・リウマチの専門医の多くが無視を決め込んでいる病気に線維筋痛症があります。

 

関節リウマチ患者70万人に対して専門医が群がるのに対して、

 

200万人以上もいる線維筋痛症患者をまともに診ようとする専門医は圧倒的に少ないです。

 

高円寺南診療所を受診中の線維筋痛症の患者さんのうちの何人かは、大学病院の専門医に「線維筋痛症は治らない病気である」と宣告されたことがある経験者です。

 

この医師は、何らかの専門医には他ならないのでしょうが、少なくとも線維筋痛症の専門医ではないはずです。

 

なぜならば、わが国には線維筋痛症専門医は存在しないからです。

 

私とて、線維筋痛症の専門医を自称することは致しておりません。

 

そうであるとすれば、その医師は「線維筋痛症は、私の専門であっても、私には治せない病気です」と誠実にお答えすべきではないでしょうか。

 

 

私が言えることは、「線維筋痛症は、治らない病気ではありません」ということのみです。

 

「非薬物療法などで改善するはずがない」と思い込み、目の前の医師の推奨する手立てを頭ごなしに否定する患者さんに対しては、

 

たとえ神の御加護によるお引き合わせのご縁があったにせよ、全くの無力な存在でしかないからです。