呼吸器 / 感染症 / 免疫・アレルギー・膠原病
<発熱性好中球減少症>
高円寺南診療所では、概ね3か月に1回程度の血液検査を実施しています。
それによって、治療の経過を評価したり、副作用発現を早期に把握したりすることが容易になるからです。
一般に末梢血液中の好中球数が500/μℓ以下の状態を無顆粒球症といいます。
無顆粒球症の原因は、①感染症(ウイルス、チフスなどの細菌)、②薬剤性、③放射線、④反復性の輸血などですが、圧倒的に多いのは薬剤の副作用です。
それでは、どのような薬剤が原因となるのでしょうか。
高円寺南診療所で経験したのは、抗甲状腺薬です。
この薬は、バセドー病など甲状腺機能亢進症の治療のため日常診療でもしばしば使用せざるを得ない薬剤です。
その使用に関しては、副作用としての無顆粒球症の存在に常に注意しておく必要があります。
つまり、抗甲状腺薬使用にて、白血球が激減し、貧血や血小板減少がみられない場合には、
まず無顆粒球症の合併を考えなくてはならないということです。
その他、常に警戒すべきは、抗菌薬、抗てんかん薬(フェニトイン)、消炎鎮痛薬(アミノピリン、アスピリン)、抗癌薬、ピルなどです。
高円寺南診療所では、抗菌薬の長期投与例はほぼ皆無であり、フェニトインを抗てんかん薬として用いることはないので、
問題はアスピリン投与者、担癌患者、避妊女性もしくは婦人科疾患患者群です。
アスピリンは消炎鎮痛剤としてよりも抗血小板薬として血栓形成の予防のため脳卒中や心筋梗塞再発防止のために使用していることが多いです。
また日本人の死因のトップが癌であることもあり、抗がん剤治療中の患者さんも多数来院しているほか、
抗リウマチ剤の基本薬物であるメトトレキサート(葉酸拮抗薬)も抗がん剤に分類されることがあります。
なお、現代女性のライフスタイルの変化もあってかピル服用中の方も増えております。
無顆粒球症の自覚症状としては、発熱(重症感染様)のみということもあります。咽頭・扁桃に白苔を伴う潰瘍形成を確認することもあります。
なお抗癌薬の副作用による死亡原因のなかで、発熱性好中球減少症によるものが第1位です。
経験的抗菌薬療法が確立する以前には、その死亡率は75%にも達していました。
発熱性好中球減少症の定義は、絶対好中球数が500/mm3未満、もしくは1,000/mm3未満で500/mm3未満になることが予測される状況下で、
38.3℃以上の発熱あるいは1時間以上継続する38℃以上の口腔内温が生じている状況です(「腋窩温」で37.5℃以上)。
抗癌薬化学療法中で発熱を認めた場合には、すべて発熱性好中球減少症を疑います。
一般的には、抗癌薬投与後10~14日で好中球は最小となります。
高齢者やステロイド投与中の患者では発熱が弱い、もしくはないこともあるので注意が必要です。
この病気は速やかな対応が求められる、内科的緊急の病態であり、発熱から治療開始まで60分とするよう推奨されています。
的確なリスク評価と治療開始の判断を、迅速に行う必要があります。
判断に迷う場合は腫瘍内科医もしくは感染症科医へのコンサルトを躊躇しないこととされます。
いずれにしても早期発見、原因薬剤の即時中止、感染症予防が最重要です。
薬剤性の無顆粒球症では、薬剤の即時中止と抗菌薬の投与を行います。
無顆粒球症では細菌、とりわけ緑膿菌よる敗血症を合併しやすく、その場合は致命的です。
好中球の早期回復を目的としてG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を投与することもあります。
なお無菌室に収容することが望ましいです。
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