日々の臨床 8月27日日曜日<突然、顔面に生じる耐え難い痛みの正体は?④>

神経・精神・運動器

 

<突然、顔面に生じる耐え難い痛みの正体は?>

 

4回シリーズ(第四話)

 

 

50代半ばの主婦。主訴は顔面痛発作、初回発作は1週間前。

 

痛みの部位は右中顔面、持続時間は1分程度、

 

右中顔面を洗顔時に刺激したり、右上の歯を磨いたり、などの動作に伴い痛みが誘発。

 

三叉神経痛:右第Ⅱ枝(上顎神経)という見立て。臨床的には典型的な三叉神経痛。

 

 

<疾患分類>

三叉神経痛を分類すると、①特発性三叉神経痛、②症候性三叉神経痛に二大別できます。

 

 

①特発性三叉神経痛とは、明らかな原因を認めないもので、

 

典型的な三叉神経痛の多くは、この特発性三叉神経痛です。

 

しかし、近年特発性(典型的)三叉神経痛とされていたものの多くが、

 

血管による三叉神経の圧迫により生じていることが明らかになってきたため、MRI検査が勧められます。

 

 

②症候性三叉神経痛とは、三叉神経痛を引き起こすような器質的な原因疾患がある場合に診断されます。

 

その器質的疾患としては、多発性硬化症、脳腫瘍、脳血管障害、帯状疱疹、蛇行動脈、動脈硬化、副鼻腔炎などが報告されています。

 

これらの疾患群をリストしてみると、多くの疾患がCTスキャンやMRI検査で確認することが望ましいことがわかります。

 

 

ただし、実際には、顔面の帯状疱疹後の神経痛としての顔面神経痛や動脈硬化、副鼻腔炎による三叉神経痛が少なくありません。

 

 

帯状疱疹については病歴確認、動脈硬化を疑う場合は、頚動脈超音波検査、

 

副鼻腔炎を疑う場合は、鼻鏡検査による鼻炎合併の確認やエックス線検査で副鼻腔の炎症を確認することなども有益な検査だと思います。

 

 

<鑑別検査とその結果>

病歴:顔面の帯状疱疹の経験あり。3年前に罹患、同側上顔面。

 

頸動脈超音波検査:頚動脈に動脈硬化所見を認めず

 

鼻鏡検査:鼻の中の粘膜が腫れて、鼻の空気の通り道が狭くなった状態。

 

特に右側の鼻の一番下にある下鼻甲介というヒダが腫れている。

 

肥厚性鼻炎もしくは慢性アレルギー性鼻炎

 

副鼻腔エックス線検査:右上顎洞の他右篩骨洞領域に異常陰影を認める。左右差顕著。⇒右側慢性副鼻腔炎

 

 

<まとめ>症候性三叉神経痛(右上顎神経痛)の疑い

 

原因疾患として、右側の慢性副鼻腔炎が関与している可能性があると考えました。

 

上顎神経(V2)は上あごの全体にわたって分布し、

 

歯茎や上唇、口蓋や下瞼、頬部、篩骨洞、蝶形骨洞や上顎洞などを支配していますが、

 

異常陰影が見出された右上顎洞および篩骨洞領域は、この領域に一致しているからです。

 

 

それでは、どのような初期治療が適切でしょうか?

 

一般的には第一選択としてカルバマゼピン(テグレトール®)が処方され、

 

難治例には三叉神経ブロック、手術による神経血管減圧術が行われます。

 

 

高円寺南診療所の治療戦略は、アレルギー性鼻炎および慢性副鼻腔炎の治療から開始することにしました。

 

アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎(蓄膿症)基本対策

 

⇒漢方薬:葛根湯加川芎辛夷

 

 

アレルギー性鼻炎追加対策

 

⇒アレルギー性鼻炎治療薬(アラミスト®点鼻液)

 

 

慢性副鼻腔炎追加対策

 

⇒抗生物質:ミノサイクリン(ミノマイシン®)

 

 

 

<経過報告>

『治療を開始して、1週間ほどで寝起きが楽になり、以前ほどイライラしなくなってきました。

 

呼吸がとても楽になり、何を食べてもおいしいです。

 

味やにおいがわかるようになってきました。

 

痛みは時々出ましたが、慣れてきたせいか余り苦にならなくなってきました。

 

 

2週間目にはほとんど神経痛が出なくなりました。

 

紹介していただいた病院でMRI検査を受けましたが、異常なしでした。

 

念のためにとのことでテグレトール®(再掲:三叉神経痛の第一選択薬)を処方してくださったので試してみましたが、

 

眠気、ふらつき、めまいが辛いのですぐにやめました。

 

以前も、市販の痛み止めが全く効かなかったので飲まないでいきたいです。』

 

 

<転帰>

この患者さんは、慢性副鼻腔炎が寛解したため、抗生物質は終了しました。

 

現在でも点鼻薬と漢方薬のみを使用していますが、

 

その後、三叉神経痛の再発はみられていません。