日々の臨床 8月19日土曜日<情緒不安定、易刺激性、うつ状態は内科の病気かも?③>

内分泌・代謝・栄養の病気

 

<情緒不安定、易刺激性、うつ状態は内科の病気かも?>

 

4回シリーズ(第三話)

 

 

42歳女性。公務員。情緒不安定でイライラしやすく、

 

部下にうっかり暴言を吐きパワハラを訴えられ、

 

うつ状態になり、某有名病院の神経科を受診していました。

 

諸事情により高円寺南診療所を受診、再診時に以下の結果を得ました。

 

 

 

<検査>

 

血液検査:

血清カルシウム12.2mg/dL, 血清リン2.3mg/dL,

 

高カルシウム血症、低リン血症

 

血清アルブミン3.9g/dL、

 

血清ALP432IU/L(基準115~359)

 

血清アミラーゼ428IU/L(基準37~160)⇒膵炎の疑

 

 

尿検査:

尿中カルシウム、尿中リン

 

 

内分泌検査:

血漿PTH204pg/mL(基準10~60)、

 

Ⅰ型コラーゲン架橋N-テロペプチド(NTX)

 

 

骨X線検査:

骨塩定量(digital image processing:DIP)法

         

指骨の骨膜下吸収所見、DIP法による骨年齢95歳相当

          

続発性骨粗しょう症

 

 

頸部超音波検査(甲状腺領域):

 

副甲状腺の右下腺に12.5mm×9.8mmの腫大を認める。

 

その他3つの副甲状腺に異常を認めない。

 

原発性副甲状腺機能亢進症

 

 

 

<検査後臨床診断:原発性副甲状腺機能亢進症>

 

高カルシウム血症の原因は原発性副甲状腺機能亢進症であると考えられます。

 

この女性の心身両面の多岐にわたる諸症状は高カルシウム血症によってもたらされたものと考えられます。

 

国家公務員共済病院の整形外科医がオーダーした血液検査によって高カルシウム血症が見いだされたことは大いなるヒントです。

 

 

これに対して、

 

>婦人科専門医の診断について、

 

骨粗しょう症の存在は指摘の通りです。

 

ただし、更年期障害ではありません。

 

患者はKKSI(クッパーマン更年期障害インデックス)という質問票調査の結果、

 

重症の更年期障害と診断されたようですが、

 

高カルシウム血症によって見かけ上更年期障害様の症状スコアが高くなったものと思われます。

 

女性ホルモンや活性型ビタミンD製剤は、

 

高カルシウム血症を増悪させるので使用すべきではありません。

 

 

>神経科(実は精神神経科)専門医の診断について、

 

精神科のマニュアル診断では、

 

確かに双極性障害(躁うつ病)のうつ病相に該当するようですが、

 

原因は高カルシウム血症です。抗うつ剤は不要です。

 

消化器症状(悪心・嘔吐など)は抗うつ剤の副作用というよりも

 

高カルシウム血症が進行した場合の症状なので、吐き気止めも不要です。

 

 

>消化器内科専門医の診断について

 

胃潰瘍は検査結果の通りだと思います。

 

 

しかし、背部痛の訴えについては骨粗しょう症によるものと想定していたらしく、

 

膵炎の可能性は疑わなかったようです。

 

高カルシウム血症は、消化性潰瘍ばかりでなく膵炎を合併することがあります。