日々の臨床 8月4日金曜日<降圧薬3剤でコントロール不良の高血圧-腎臓超音波が鍵!>

心臓・脈管 / ・泌尿器の病気

 

<降圧薬3剤でコントロール不良の高血圧⁻腎臓超音波が鍵!>

 

 

90代女性。50代から高血圧を指摘されているが、

 

薬に頼るのが嫌いなので、降圧薬の服用を不規則に続けていました。

 

3か所の大学病院で、それぞれ別々の降圧剤を処方され、

 

家庭血圧で140~160mmHg台で推移するように

 

自分の判断で飲み分けていた模様です。

 

最近では3剤すべてを定期内服しても家庭血圧は130~150mmHgでした。

 

 

年をとり、3か所の大学病院に通院するのが苦になったため、

 

高円寺南診療所を紹介され、今までと同じ薬を処方してほしい、とのことで来院されました。

 

 

問診:5年程前に腎機能異常の指摘を受けてから、

 

やむを得ず降圧剤を定期内服するようになった、とのことでした。

 

3か所での処方薬を確認したところ、以下の通りでした。

 

A大学のα教授から、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬のテルミサルタン【ミカルディス®】80mg

 

B大学のβ教授から、カルシウム拮抗薬のアムロジピン【ノルバスク®】5mg

 

C大学のɤ教授から、サイアザイド利尿剤のヒドロクロチアジド12.5mg

 

 

尿検査:蛋白(±)、潜血(-)、沈査(硝子円柱1~2/1視野、細胞成分は認めず)

 

 

血液生化学検査:クレアチニン1.8mg/dL, K 5.2mEq/L, eGFR 19.8mL/分/1.73㎡

 

 

腹部超音波検査両側腎臓の対称的萎縮を認める

 

⇒慢性腎疾患を示唆、腎血管性高血圧は否定的

 

 

<臨床診断>

慢性腎臓病(良性腎硬化症の疑い)

 

長い高血圧歴、活動性のない検尿所見、両腎の萎縮から良性腎硬化症を疑います。

 

 

<鑑別すべき疾患>

 

原発性アルドステロン症:

若年で低カリウム血症をともなう高血圧という臨床像とは異なるので否定的です。

 

 

腎血管性高血圧:

難治性高血圧で、腎萎縮は左右不均一であることが多いですが、

 

この症例は降圧が無効ではなく、均一性の腎萎縮であることから否定的です。

 

 

大動脈炎症候群:

腎血管狭窄を惹起すると腎血管性高血圧となることがありますが、

 

腎血管性を疑わせる所見がありません。

 

 

線維筋異形成:

まず若年女性に多い疾患である点、

 

不均一な腎萎縮が認められるなどの点で一致しません。

 

 

 

<治療>

ARB・Ca拮抗薬・利尿薬配合剤であるミカトリオ配合錠®を

 

一日1回1錠を処方に変更しました。

 

 

偶然ですが、これまで内服していた3種類の薬剤と

 

同等の成分配合の合剤を処方することができました。

 

 

<転帰>

血圧はこれまで以上に安定し、比較的良好な経過を維持していました。

 

3か所の大学病院での処方が高円寺南診療所1か所の、しかも1日1錠の内服で済むので、

 

とても安心だし納得して服薬できると感謝してくださいました。

 

しかし、90歳を超える超高齢者であるため、

 

介護認定の必要性や在宅医療の必要性を家族に説明して、

 

彼女の住所近くの医療機関を紹介させていただきました。

 

 

<教訓> 

3つの大学病院の循環器内科の教授の外来を受診し、

 

それぞれ他院での受診歴は伏せたまま、なおかつ、

 

それぞれの大学病院の門前薬局で調剤された薬を内服されていました。

 

 

お薬手帳も3冊持参されていましたが、

 

医療制度のメリットが全く生かされていないのが残念でした。

 

かかりつけ医とか主治医をもつことが大切とは、

 

世間で何十年も言われ続けてきたことでした。

 

かかりつけの開業医から大学病院へ紹介という流れが効率的であるはずです。

 

しかし、高円寺南診療所では逆の流れが圧倒的に多いことから、

 

第一線の医療のむずかしさを感じています。

 

この傾向が続くのであれば、心電図やテレビレントゲン装置の他に、

 

超音波診断装置やなどは必需品です。

 

今回も、腎臓超音波検査が薬剤抵抗性の高血圧症の原因究明に役に立ち、

 

適切な対応決定するための材料が得られたことは特筆すべきだと思います。