内分泌・代謝・栄養の病気
テーマ:甲状腺クリーゼ
<インフルエンザとの鑑別にご注意!>
医師は知識だけではダメ、経験の蓄積、それに優秀なチームに恵まれていないと
対応できないことがあります。
かつて、診療所の受付の職員から「甲状腺クリーゼの対応が可能ですか」
という電話での問い合わせについての返答を求められたことがあります。
私は、職員が即座に「対応可能です。ご来院はいつが可能ですか。」
と対応できない問い合わせについては、
「申し訳ございません。現段階では、十分な対応ができません。」
と答えるように指示しています。
医師ではない事務職員に高度な医学知識を求めることは無理なことではありますが、
せめて病名としての認識ができるように、
ふだんから教育しておくことは医師として、責任者として、
日々怠ってはいけない責務の一つだと考えています。
この、<日々の臨床>のシリーズも、
患者の皆様に対して最先端の臨床情報を提供することと同時に、
高円寺南診療所の職員に対する教育の役割をも兼ねています。
その残念なケースの一つが、本日のテーマ、甲状腺クリーゼです。
その後は、甲状腺クリーゼの対応が可能か、という問い合わせ自体が一件もありません。
最近の高円寺南診療所は、甲状腺疾患を未病(自覚症状が出現していない病気の初期の段階)
のうちに発見して、計画的かつ専門的な対応をし、予防策を講じているためか、
甲状腺クリーゼは全く経験していません。
むしろ甲状腺病に関しては、
他の専門病院に通院している方の相談も日常的に対応しています。
甲状腺などのホルモン関連の病気は、病状が変化しやすいので、
大学病院などのように2,3か月に1回程度の受診では、
細やかな対応ができないのは仕方がないことです。
甲状腺クリーゼとは、
甲状腺中毒症の患者さんに強いストレス(感染、外傷、手術、精神的ストレスなど)
が加わった際に、症状が極度に進行し、
甲状腺ホルモン作用不足に起因して
複数臓器の機能不全(重篤な心不全や中枢神経症状など)がもたらされる病態です。
したがって、甲状腺クリーゼは対応が遅れると死亡する危険を伴うため、
甲状腺ホルモンの検査結果を待たず緊急に治療することが必要な病態です。
<風邪をひいて38℃以上の熱がでて動悸がひどくなり、吐き気が出て下痢になり、
うとうとしてしまうのに、気持ちも落ち着かなくなり、たまりません。>
という患者さんの訴えは珍しくありませんが、
医師までもが風邪のせいと即断すると命とりです。
ポイントは、病歴です。通院中の患者さんであれば、その点、まず問題はないです。
しかし、初診の場合は特に、甲状腺の病気に気が付かないと
大変な事態を招いてしまいます。
最近では、患者さんが勝手に自己診断して、
たとえば<インフルの症状なので、インフルに良く効く風邪薬と解熱剤を出してください。>
などと、診断も処方内容も決めつけて要求する方も、
お見えになるのでさらに注意を要します。
以下に、甲状腺クリーゼの症状と診断基準を紹介いたします。
症状:
Ⅰ.甲状腺中毒症(遊離T3および遊離T4の少なくともいずれか一方が高値)
Ⅱ.①中枢神経症状(不穏、せん妄、精神異常、傾眠、けいれん、昏睡)、
②発熱(38℃以上)、③頻脈(130回/分以上)、
④心不全症状、⑤消化器症状(嘔気・嘔吐、下痢、黄疸を伴う肝障害)
診断:
甲状腺中毒症状に加えて、①中枢神経症状と②~⑤の1つ以上、
あるいは②~⑤の3つ以上を満たす場合、甲状腺クリーゼと診断します。
甲状腺中毒症状の他に中枢神経症状の見分けがとても大切です。上記の例では、
<うとうとしてしまうのに、気持ちも落ち着かなくなり、たまりません。>
というところが鍵になります。
確かに、このような症状に見舞われたら、
<とても、たまったものではありません。>
傾眠(うとうとしてしまう)、不穏(気持ちも落ち着かなくなる)など、
心身医学や心療内科などで十分なトレーニングを積んできた医師でないと判断が難しいと思います。
また、このような患者さんは精神科医に相談するケースはごく稀ではないでしょうか。
治療の要点は、甲状腺ホルモン分泌および活性化の抑制、
作用の遮断(主として交感神経β作用)、水・電解質代謝の是正の3点です。
①甲状腺ホルモン分泌および活性化の抑制
抗甲状腺薬大量投与、無機ヨード(甲状腺ホルモン分泌を抑制)、
ステロイドホルモン(T4から活性型の甲状腺ホルモンであるT3への変換を抑制)
②甲状腺ホルモン作用の遮断・・・特に高度な頻脈を伴う場合、
β遮断薬の投与(ただし、低拍出性心不全の場合は禁忌!)
③水・電解質代謝の是正・・・ショック対策
気道確保、補液、酸素投与、ステロイド投与
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