日々の臨床 7月18日 火曜日<再生不良性貧血>

血液・造血器の病気

 

テーマ:再生不良性貧血

 

   ( 悪性貧血より悪性な貧血 )

 

 

貧血の女性は多いです。大抵は、鉄欠乏性貧血ですが、

 

中には手ごわい貧血が紛れ込んでいることがあります。

 

 

一般に、貧血というと、赤血球の減少であると理解されていますが、

 

それにとどまらず、白血球や血小板も不足する貧血があります。

 

その代表は再生不良性貧血です。

 

 

白血球が減少すると易感染性といって感染症に罹り易くなります。

 

血小板が減少すると出血傾向を生じます。

 

 

そもそも、血液は骨髄で作られます。

 

骨髄には血液となる元となる細胞(造血幹細胞)があります。

 

再生不良性貧血は、この造血幹細胞が減少して、その結果、

 

末梢血の汎血球減少(赤血球、白血球、血小板のすべての減少)を来す病気です。

 

 

これには、先天性のものと、後天性のものに二大分されます。

 

先天性のものでは、常染色体劣性遺伝をするファンコーニ貧血があります。

 

これは、学童期の再生不良性貧血で、心・腎・骨格系の先天異常を伴います。

 

 

後天性は、さらに特発性、二次性、特殊型に細分類されます。

 

特発性のものは、免疫機序による造血抑制で発症するもので、

 

ふつう再生不良性貧血といえば、この特発性のものを指します。

 

 

二次性のものとして、クロラムフェニコールなどの薬剤、

 

ベンゼンなどの科学物質、放射線の他、妊娠が原因となることもあります。

 

 

特殊型として、肝炎後に発症するもの、夜間血色素尿症を合併するものなどがあります。

 

 

再生不良性貧血では、肝脾腫・リンパ節腫大が無いことが特徴なので、

 

これを確認することが重要になります。

 

これは、汎血球減少を来す他の疾患

 

(発作性夜間血色素尿症、急性白血病、骨髄異形成症)などの除外に役立つからです。

 

また骨髄低形成は特異的といわれています。

 

しかし、実際にはその因果関係の証明は難しいです。

 

エリスロポイエチンの上昇を認めますが、これは骨髄異形成症候群でも認められます。

 

その際、同時に、骨髄巨核球の減少や血漿トロンボプラスチンの高値が確認できれば、

 

骨髄異形成症候群はほぼ否定できます。

 

 

造血能低下による鉄の利用障害のため血清鉄は増加します。

 

炎症反応であるCRPは陰性ですが血沈が亢進します。

 

ただし、血沈の亢進は炎症のためではなく、貧血のためです。

 

 

一部は発作性夜間血色素尿症(PNH)に移行します。

 

また5%の症例でHLA-Aアレル欠失血球や

 

GPIアンカー膜蛋白欠失血球(PNH血球)が相対的に増加します。

 

これらが陽性の患者では免疫抑制療法の奏功率が高いです。

 

 

治療には、重症度の判定が不可欠です。

 

造血幹細胞移植が第一選択の標準治療です。

 

ただし、40歳未満の重症例(ステージ3~5)で、

 

HLA適合同朋ドナーがいる場合に限られます。

 

ステージ3(やや重症)とは、網状赤血球60,000 / μL未満、

 

好中球1,000/ μL未満、血小板50,000 / μL未満の3条件のうち、2項目以上を満たすものです。

 

 

40歳以上では、免疫抑制療法を優先し、

 

抗胸腺細胞グロブリン(ATG)やシクロスポリンによる治療を選択しますが、

 

無効の場合にはじめて造血幹細胞移植が検討されます。

 

 

輸血が必要な場合は、新鮮血などの全血輸血は行わず、必要な成分のみを輸血します。

 

高度な貧血の場合は、濃厚赤血球を用い、

 

出血傾向が顕著な場合は濃厚血小板を用います。

 

凝固因子は欠乏しないため、新鮮凍結血漿は不要です。