日々の臨床 7月17日 月曜日 <ニコチン中毒>

中毒・物理的原因による疾患、救急医学

 

テーマ:ニコチン中毒

 

   ( 喫煙者のメンタルに対する偏見)

 

 

偏見1.精神を病む者にとって、タバコ使用は自らを癒す行為として不可欠である

 

ニコチンは精神疾患の有無にかかわらず、強力な毒物です。

 

体に取り込まれると一時的に集中力と注意力を増加させます。

 

しかし、繰り返し使用することですぐに耐性ができます。

 

精神疾患(うつ病、統合失調症、注意欠陥性障害など)の治療に

 

タバコ使用を加えても、効果がないことが明らかになっています。

 

これは、精神疾患患者がタバコを使用しても、病気はよくならず、

 

かえってほとんどあらゆる病気の増悪を招くだけです。

 

 

禁煙を勧めない医療者は、適切な医療を放棄して、

 

病気を長引かせ、悪化させているということになります。

 

 

 

偏見2.精神を病む者は禁煙しようという気持ちがないということ

 

精神科の外来および入院患者さんの調査によると、

 

禁煙を希望する率は、一般住民と差がなかったようです。

 

さらに、精神疾患を持つ喫煙者の禁煙希望率と、

 

精神疾患の種類、重症度、他の薬物依存症の有無との

 

関係はなかったとされています。

 

 

禁煙を希望している喫煙者は、薬物依存症の治療を求めている患者さんである

 

という認識を、医療者は明確に持つべきだと思います。

 

 

 

偏見3.精神を病む者は禁煙をすることができない

 

喫煙者、すなわちニコチン依存症は、他の依存症と同様、

 

その治療は簡単ではないと考えられています。

 

 

しかし、タバコを吸う精神疾患患者を対象とした治療研究と

 

系統的レビューを見ると、禁煙は不可能ではありませんでした。

 

 

禁煙を希望するうつ病患者に合わせた段階的治療を施すと、

 

18ヶ月後に 25%が禁煙しており、その成功率は一般住民の禁煙成功率と同じでした。

 

 

喫煙者には理解を、愛を、そして希望を持って禁煙していただけるよう、

 

支援を惜しんではなりません。

 

 

 

偏見4.タバコをやめると、ストレス対処できなくなり、メンタルヘルスが悪化する

 

精神疾患の治療も同時に受けている喫煙者を対象とした

 

禁煙に関する無作為試験がいくつかあります。

 

 

それらによれば、禁煙に成功したことで、うつ病や PTSD が悪化したり、

 

精神科への入院率が増加したり、

 

アルコールや他の薬物乱用が増えるようなことはありませんでした。

 

 

タバコをやめるまでの意識形成、態度決定および行動変革という

 

一連のプロセスを経験することは、身体の健康回復のみならず、

 

その後の人生におけるストレス対処、メンタルへルスの安定に寄与します。

 

 

 

偏見5.急性の症状や精神的な悩みで苦しんでいる方にとり、禁煙は二の次でよい

 

喫煙者のほとんどが喫煙には病気や病死を増やす危険があることを知っています。

 

そして、専門家から禁煙の支援を受けたいとも思っています。

 

 

タバコ使用の問題を患者さんに提起した場合、

 

精神疾患のない方と同じように禁煙したいと思っており、また、実際に禁煙しても、

 

精神疾患の改善を妨げる心配はないことが次第に明らかになっています。

 

禁煙開始こそが、心身の病や苦悩を解決するための近道であり、

 

これを避けることは問題解決の先送りになります。