日々の臨床 7月7日金曜日<心不全の予防と治療(その1)>

心臓・脈管 / 腎・泌尿器の病気

 

テーマ:心不全の予防と治療(その1)

 

心不全は身近な病気です!

 

 

心不全は、患者・家族教育が最も重要で、

 

生活指導や服薬アドヒアランスを高めるチーム医療が効果的です。

 

超高齢社会にあって独居者の増加もあり、早期からの積極的介入が望まれます。

 

心不全の話は、どうしても難しく専門的になってしまうので、

 

無理をなさらず、理解できる範囲で、ご参考になさってください。

 

 

医師は、こんなふうに考えているのだという雰囲気だけでも、

 

感じ取っていただければ、と存じます。

 

 

心不全の症候:脈拍、血圧、呼吸数といったバイタルサイン、

 

爪の色、手足の冷たさ、皮膚の湿っぽさ、動悸、息苦しさ、だるさ、食欲、

 

咳、痰、浮腫、尿量などを常にチェックして、心不全の悪化を防止します。

 

 

心不全の病態:

心不全は慢性的な交感神経系緊張状態にあります。

 

ですから、交感神経系の緊張を更に強める刺激となる

 

過労、睡眠不足、精神的ストレスなどはしばしば致命的となります。

 

自律神経系である交感神経の過緊張は

 

RAA(レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系、エンドセリン-1分泌、

 

ADH(抗利尿ホルモン:バゾプレシン)などのホルモン分泌を亢進させます。

 

Na利尿ペプチドやアドレノメドュリンは、

 

交感神経系、RAA系、エンドセリン-1分泌、

 

ADH(バゾプレシン)に対して拮抗的に作用します。

 

 

交感神経終末から放出される神経伝達物質は

 

ノルエピネフリン(ノルアドレナリンとも呼ばれる)です。

 

副腎髄質からもホルモンとして血中に分泌されます。

 

これはエピネフリンと共に、交感神経系を動かし、心拍を増加させ、

 

脂肪からエネルギーを放出し、筋肉の反応を増強する、

 

すなわち闘争反応あるいは逃避反応を制御する物質です。

 

このノルエピネフリンとよく似た物質に

 

123I-MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)があり、

 

心不全の重症度や予後予測に有用です。

 

 

心不全では交感神経活性の亢進により、

 

MIBGの交感神経終末からの消失が早くなるため、

 

継時的に集積が低下します。

 

123I-MIBG投与3~4時間後の後期像での

 

心筋シンチグラフィでの心縦隔比(H/M比)は増大します。

 

 

臨床像:

うっ血性心不全の呼吸困難は仰臥位(あおむけ)では

 

静脈還流が増加するため増悪し、坐位により軽快します。

 

浮腫は下肢や背側に顕著であり、

 

漏出液(タンパク質が少ない)の貯留によるため圧痕を生じます。

 

 

左心不全所見:

肺水腫は、肺うっ血とともに呼吸困難を来します。

 

心臓カテーテル検査で計測される肺動脈楔入圧の上昇は、左房圧上昇を反映します。

 

左室駆出圧(収縮能)が正常でも左室拡張能が低下すれば

 

うっ血性心不全となることがあります。

 

 

洞調律で左室駆出率が低下した心不全において、

 

最も実用的な心臓超音波所見は、僧房弁輪運動速波形のパターン分類で、

 

左室充満圧の上昇を示唆する左室駆出率のE / e’>15を見出すかどうかが有用です。

 

 

左室駆出率が維持された心不全の診断には、

 

心臓超音波検査等で左室駆出率≧40~50%が用いられています。

 

 

高拍出性心不全を来す病態には

 

①重症貧血、②甲状腺機能亢進症、③動静脈瘻があります。

 

 

心臓局所でのアンジオテンシンⅡは線維芽細胞からのエンドセリン分泌を介し、

 

心筋細胞でのBNP発現を亢進させます。

 

BNPとは主に心室で合成される心臓ホルモンです。生理活性があり、

 

腎機能の影響を受けますが、NT-proBNPはBNP前駆体のN端側フラグメントであり

 

生理活性が無いが、腎機能の影響をより受けやすいです。

 

 

治療:

心不全に有効な薬が多数あるとはいえ、

 

日常生活上の注意点を、医師に指示された通り守ることがすべての基本です。

 

安静度、運動プログラム、塩分・水分制限、体重コントロールに留意しながら、

 

処方された以下のような強心薬や利尿薬の規則正しい服用、

 

定期的な医師の診察が不可欠となります。

 

 

<慢性心不全>の治療には無症状の心機能低下例から心不全例まで、

 

β遮断薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬を用いると予後改善が認められます。

 

 

<浮腫を伴う心不全>では、まず浮腫、肺水腫等の全身のうっ血の改善のために、

 

速効性の利尿薬(フロセミド)を投与します。

 

従来の利尿薬に治療抵抗性の場合には、

 

バゾプレシン拮抗薬であるトルバプタンを使用します。

 

 

<心不全を合併した高血圧>に対しては、降圧利尿薬、ACE阻害薬、ARBが適応です。

 

 

<心不全に合併した頻拍性心房細動(Af)>では、

 

心原性塞栓症予防として抗凝固療法を行います。

 

また心拍数調整のためβ遮断薬、Ca拮抗薬を用います。

 

それでもコントロールがつかないときはアミオダロンを選択します。

 

ただし、抗不整脈薬の使用は慎重を要します。

 

たとえばⅠ群抗不整脈薬の使用は生命予後を悪化させてしまいます。