日々の臨床 5月6日土曜日

内分泌・代謝・栄養の病気

 

テーマ:糖尿病治療薬の併用療法

 

 

症例:90歳の男性。最近、3ヶ月で体重が6㎏減少し、夜間頻尿もあり来院。

 

30年前から2型糖尿病があり、糖尿病専門医からグリクラジト(SU類)と

 

ボグリボース(α-GI)の長期処方を継続してきた。

 

 

この患者さんの服薬情報は、『お薬手帳』によるものです。

 

高齢で耳が遠く、足腰が不安定であるにもかかわらず、一人暮らしで頑張ってきた方です。

 

それが、やむを得ず近所に住む縁者の協力の下、近所の内科医に転医し、

 

インスリングラルギン(インスリンアナログ持続型溶解)1日1回皮下注射と

 

経口血糖降下薬の併用療法を導入することになったとのことでした。

 

 

ご相談は、インスリンは続けているが、

 

内服薬は気分が悪くなるため中止したところ、

 

空腹時血糖が230mg/dL,HbA1c11.8%と悪化してしまったので、

 

何とかしてほしい、ということでした。

 

 

この方の身長は162㎝、体重48㎏とのことで、体格係数BMIを算出すると18.3で、

 

肥満傾向はおろか、むしろ痩せが明らかでした。

 

また、空腹時血糖が140mg/Lであることから、

 

SU類、DDP-4阻害薬、GLP-1アナログといった経口血糖降下薬がラインアップされます。

 

糖尿病専門医から処方されていたグリクラジト(SU類)はこれに一致しますが、

 

ボグリボース(α-GI)は肥満傾向にあるか、

 

肥満傾向が無い場合で空腹時血糖が140mg/L未満の場合に選択するので一致しません。

 

 

そこで、グリクラジト(SU類)に、DDP-4阻害薬もしくはGLP-1アナログを

 

併用していただくことを検討します。

 

SU類は、速効性インスリン分泌促進薬と共に血糖非依存性インスリン分泌薬に分類されるのに対し、

 

DDP-4阻害薬およびGLP-1アナログは、いずれもインクレチン関連薬であり、

 

血糖依存性インスリン分泌増幅薬に分類されます。

 

作用機序の異なるものを組み合わせることにより、

 

治療効果を高めることが期待できるからです。

 

 

ただし、ここで難問があります。

 

インクレチン関連薬はSU類と併用する場合には低血糖に注意し、

 

可能な限り血糖自己測定を行うことが望まれるからです。

 

 

そこで、SU類は選択せずに、同じく血糖非依存性インスリン分泌薬である

 

速効性インスリン分泌促進薬を選択することを提案し、

 

近医での処方をお勧めしたところ、血糖コントロールが改善した模様です。

 

 

このように、今日の糖尿病治療薬の併用療法薬の選択は、あたかもパズルを解くような、

 

あるいは連立方程式を解いているときのような感覚があります。