心臓・脈管 / 腎・泌尿器の病気
テーマ:QT延長症候群とトルサーデ・ドゥ・ポアントゥ
高円寺南診療所は、どうした因縁か、平成元年開設以来、
発作性の病気をもつ患者さんを多数診療してきました。
発作とは、一時的に起こる病気の症状のことですが、正しく理解していただかないと困ります。
<予防に勝る治療なし>と言われて久しいですが、
多くの医師も患者もなかなか実行できていないのが現状です。
発作性の病気の多くは、発作と発作の間の無症状のときの治療こそが肝心要ですが、
それが守れずに、夜間や休日に救急搬送されているのが現実です。
私が、平成元年に当地で開業して以来、近所での救急車のサイレンを多く耳にしてきました。
高円寺とは、そういう土地柄なのだろうな、と覚悟した次第です。
この発作性の病気の例を挙げてみましょう。
意識消失発作、頭痛発作、てんかん発作、眩暈(めまい)発作、耳鳴り発作、
胸痛発作(狭心症・肋間神経痛)、不整脈発作、喘息発作、過換気発作、パニック発作、
ヒステリー発作、腹痛発作(過敏性腸症候群)、低血糖発作、ヒステリー発作・・・、
これらは高円寺南診療所では日常的に経験しております。
おそらく、このコラムをお読みになっている患者の皆様の中には、
思い当る方も少なくないはずです。
一番の問題は、発作があるとき、つまり、症状が現れているときだけが病気である、という思い込みです。
この思い込みがあると、症状が消えると、病気が治ったものと考えがちです。
人間の心理としては、<不快>より<快>をもとめますから、
<治ったもの>と思い込んだ方が、その場は安心でき、気分は<爽快>かもしれません。
しかし、これが、とんだ命取りになることがあるのです。
さて、今回のテーマであるQT延長症候群(-えんちょうしょうこうぐん)は、
心臓の病気です。これは、心臓に器質的疾患を持たないにもかかわらず、
心電図上でQT時間の延長を認める病態です。
心臓の収縮後の電気的異常により、心室頻拍
(Torsades de Pointes:TdP、トルサデ・ドゥ・プアンテ、多形性心室頻拍という心室性不整脈の一種)が生じ、
致死的な不整脈である心室細動出現のリスクを増大させます。
これらの症状は、動悸、失神や心室細動による突然死につながる可能性があります。
症状は、条件のサブタイプに応じて、様々な刺激によって誘発されます。
心電図は、心臓の電気的な活動の様子をグラフにしたものです。
心臓の電気的な活動は、心臓の機械的な活動(ポンプ機能)の周期に対応しています。
心電図のグラフの波形は、P波からはじまって、
通常はQ波、R波、S波、T波、場合によってはU波までを記録し、
次のP波に続くまでが1周期で、心臓の1回の拍動の時間に相当します。
上記は、正常な心電図のモデルですが、QT延長症候群では、QT間隔が正常より広くなっています。
原因には、先天性のものと、後天性のものがあります。
後天性のQT延長症候群で最も多いのが薬剤性のものです。
何と、特に抗不整脈薬のいくつかが有名で、抗菌剤、向精神薬なども原因となります。
ですから、循環器の専門医、とりわけ不整脈の専門医の多くは、
外来では昔ほど抗不整脈薬を処方しないはずです。
催不整脈作用により、かえって致死的な不整脈を来すことを知っているからです。
無知ということは、恐ろしいことであり、
患者の心臓をチェックせずに安易に抗菌剤を処方する一般医、
身体には無関心な精神科による向精神薬投与などは、今後も問題になることでしょう。
徐脈といって、脈拍数が減少すること自体がQT延長をきたすことも忘れてはなりません。
高円寺南診療所では、自然療法(非薬物療法)の方針の一環として、
水氣道®を推奨していますが、参加準備にあたり、必ずフィットネス検査を行っています。
その中には負荷心電図もあります。陸上から水中に移った場合、
一過性に徐脈になることがあるので、安全性の確認のためには必須であると考えています。
発作を引き起こすその他の原因には、
電解質異常とくに、血液中のカリウム、カルシウム、マグネシウムの濃度のいずれかが低下している場合です。
これはアシドーシスといって、
体が酸性に傾くような状態、心筋梗塞や心不全をはじめ、
睡眠不足、過労、糖尿病、呼吸不全などが想定されます。
後天性のQT延長症候群の治療状のポイント:
致死的不整脈である多形性心室頻拍(Torsades de Pointes:TdP、トルサデ・ドゥ・プアンテ)の予防に尽きます。
なにより、この不整脈が発生するような原因を除去することが基本中の基本です。
ふだん徐脈性不整脈を伴っている場合には、予めペースメーカーの植え込みを行います。