日々の臨床 4月25日火曜日 

血液・造血器の病気

 

テーマ:発作性夜間血色素尿症

 

 

<朝起きた時の赤ワイン色のおしっこが出るので怖い>

 

という患者さんのお話を医学カンファレンスで聴いたことがあります。

 

他の症状としては腹痛があり、診察すると貧血が確認されました。

 

発作性夜間血色素尿症は国内には500人以下なので稀な病気ですが、

 

血液のしくみを説明する上で有用なヒントを与えてくれます。

 

 

一目で出血があきらかな血尿を肉眼的血尿といいます。

 

溶血とは赤血球の細胞膜が破壊されて壊れることです。

 

血液が紅いのは、赤血球の存在によります。

 

そして、その赤血球がなぜ赤いのかというと、

 

赤血球に含まれる血色素(ヘモグロビン)が赤いからなのです。

 

また血尿とは尿に赤血球が混じることです。

 

 

同様の理由で、赤血球が壊れても血色素が尿に混じれば血尿になります。

 

これが血色素尿です。

 

 

発作性夜間血色素尿症とは、造血幹細胞の病気です。

 

後天的にPIG-A遺伝子が変異することによって造血細胞がクローン性に拡大して、

 

補体による血管内溶血をもたらすものです。

 

補体とは、生体が病原体を排除するときに

 

抗体および貪食細胞を補助する免疫システム (体系) を構成するタンパク質です。

 

補体系は自然免疫に属しています。

 

 

<発作性>という名称がついていますが、

 

溶血は持続的に生じていて、発作的に起こるのではありません。

 

ただ、<夜間>に溶血が盛んになるので血尿が朝に多いために名づけられたものです。

 

なぜ、夜間に溶血が盛んになるのかというと、就寝中は換気量が減少し、

 

体液が酸性に傾くこと(呼吸性アシドーシス)がきっかけで

 

補体が働き赤血球膜が破壊、つまり血管内溶血が起こるからです。

 

 

この病気ではなくとも、肥満の方は、睡眠時の換気量が特に減少し、

 

低酸素、呼吸性アシドーシスになりがちなので要注意です。

 

極端な例では、睡眠時無呼吸症候群となります。

 

 

発作性夜間血色素尿症に特有な赤血球の証明と溶血が証明されれば診断可能です。

 

発作性夜間血色素尿症の三大症状は、血管内溶血(⇒貧血)、血栓症(⇒脳梗塞、心筋梗塞)、骨髄不全です。これらは補体が関与して発症します。

溶血の治療に遺伝子組み換えヒト化モノクローナル抗体であるエクリズマブが使われますが、高価格であること、無効例があることなどの問題があります。

 

日々の臨床

4月26日水曜日 

消化器系の病気

テーマ:肝細胞がん

 

<お腹が張ってきて、白目が黄色い>といって来院された初老の男性例。たしかに眼球結膜は黄味がかっていて、どちらかというとセピア色に近い。張っているというお腹には多量の腹水が貯留していました。詳細にお尋ねすると、C型肝炎を患っていて全身倦怠感は続いていたが職を失ったため通院を中断していたとのことでした。ここまでで、たいていの内科医は肝細胞がんを疑います。

 

初診時に、ただちに超音波検査と腫瘍マーカーを含む血液検査を行いました。超音波では肝硬変の中にモザイクパターンの結節を3つ認めました。高円寺南診療所の超音波診断装置にはカラードプラーが使えるので確認したところ、結節内の異常血流を検出することができました。

肝細胞がんは、このように自覚症状に乏しく、癌が進行して初めて腹水や黄疸が出現することが多いです。

 

肝細胞がんは原発性肝がんのうち、肝細胞に由来するものです。多発する傾向があります。

約75%に慢性肝炎、約60%に肝硬変があります。C型肝炎ウイルス由来60%、B型肝炎ウイルス由来15%など原因が明らかなものが多いです。

紹介先の病院に入院され、およそ半年後、ご自宅で元気に過ごされましたが、それから3年後に亡くなられました。