日々の臨床:4月8日 土曜日

内分泌・代謝・栄養の病気

 

テーマ:尿崩症

 

 

体の病気なのか、心の病気なのか、患者さん自身ばかりでなく、医師も判断がつかないために、

 

<いろいろな病院でたらいまわしされた挙句、高円寺南診療所に辿りつきました>

 

というケースに尿崩症があります。

 

 

この病気の症状は、やたらに喉が渇き、そのためたくさんの水分を摂取し、

 

その結果、大量の排尿が続く病気です。これは、まず心因性多飲症との鑑別が重要です。

 

 

まず心因性多飲症は、何らかの心理的要因のために多飲行動を続けるもので、

 

多尿はその生理的な結果に過ぎません。多飲は心理的葛藤の代償行為、

 

口渇感や口腔内違和感の解消行為の他、統合失調症の強迫飲水などが代表的です。

 

これは、医師がこの病気を疑うかどうか、

 

 

その前提として、心因性多飲症の知識と診療経験があるかどうかにかかっています。

 

心療内科専門医は全国に120名ですから、見落とされやすい病気であることもうなずけます。

 

仮にこの病気を熟知していて、必要な診療を続けようとしても、

 

こうした患者さんの多くは、表面的な体の症状に伴う多飲行動であることを

 

強く主張するので、専門医を悩ませます。

 

 

ただし、飲水制限に協力していただければ、

 

その結果、尿量が減少するので、尿崩症ではないことを説明することは可能です。

 

 

さて、この心因性多飲症を除外できた場合に、直ちに尿崩症を疑うかというと、そうではありません。

 

糖尿病や高齢者に多い脱水などの可能性が高いからです。

 

この場合、尿検査で尿糖が陽性であるか、また、尿の浸透圧を調べます。

 

糖尿病での利尿反応は浸透圧によるものであり、300mOsm/Kg以上です。

 

逆に300mOsm/Kg未満であれば、水利尿であり、ここではじめて尿崩症を疑います。

 

 

尿崩症の症状である多尿は、1日3リットル以上にも及びます。

 

これは腎臓の集合管という組織の水再吸収の障害が直接の原因となっています。

 

 

これにはアルギニン・ヴァゾプレッシン(AVP)という抗利尿ホルモン

 

もしくはその受容体(V2受容体)が関与しています。

 

 

脳の視床下部や下垂体後葉の障害により、

 

下垂体後葉から分泌されるはずのアルギニン・ヴァゾプレッシン(AVP)の

 

分泌が低下して多尿となるのが、中枢性尿崩症。

 

 

これに対して、AVPの分泌は正常だが腎臓の集合尿細管のV2受容体の障害のために、

 

AVPの刺激に対して反応性が低下して多尿となるのが、腎性尿崩症。

 

 

中枢性尿崩症と腎性尿崩症の鑑別のカギとなるのが、DDAVP(ヴァゾプレッシン誘導体)試験です。

 

DDAVPは抗利尿ホルモンAVPと同様の作用をもつため、

 

AVP分泌障害が原因である中枢性尿崩症では、尿量が減少し、

 

また尿の浸透圧が上昇(濃縮尿)が観察されます。

 

 

腎性尿崩症は、これに反応しません。

 

 

いかがでしょうか。単なる内科医でもなく精神科医でもない、

 

心身医学を専門とする現場の臨床医がもっと必要だとは思いませんか。

 

医師不足は深刻ですが、それは数の不足というよりは、質の不足、

 

あるいは、現場に対応できるトレーニングの不足だと私には思われます。