今月のテーマ<脳神経内科>
50代男性。「左目の奥が痛み、まぶたが下がり、物が二重に見える」
そこで眼科を受診したところ、
「視力も正常だし、目に異常はないので、神経を診て貰いなさい」と言われた。
「どこを受診してよいかわからない」と妻に伝えたら、
「そういうときは高円寺南診療所で相談してみたら」と勧められて来院。
左目の奥が痛みだしたのは1週間前、同じく左目のまぶたが挙がりにくくなり、
物が二重に見えるようになったのは4日前から、とのことでした。
左側の瞳が外側を向いているのに気付いたため、
「左側の目で鼻の方向をみてください」と指示し
指先の動きを目で追っていただこうとしましたが、
瞳を内側(鼻側)に向けることはできませんでした。
神経学的検査:四肢の筋力、深部腱反射はすべて正常で、項部硬直もありませんでした。
ただし、額の左側の表在感覚は低下していました。
ドクトル飯嶋の推理:左目の奥の痛み、左側の額の皮膚感覚低下より
三叉神経(第一枝)の障害を疑いました。
左目の瞼が垂れ下がり(眼瞼下垂)、物が二重に見え(複視)、
左目が外転し、内転不能であることから左動眼神経麻痺を考えました。
症状が左目周辺に限局し、全身的には異常が認められないので、
頭蓋内の局所的病変と判断しました。
動眼神経も三叉神経もともに12対ある脳神経の仲間であり、
それぞれ第3、第5脳神経です。
複数の脳神経が障害を起こしている場合は、両者に共通する病態を考えてみます。
これに該当するのは、頭蓋内の海綿状脈洞付近に病変が表れる病態です。
この症例の場合、トローザ・ハント病が疑われます。
ドクトル飯嶋の指示:発症してから数週間を経ないと診断が確定できないため、
トローザ・ハント病ではなく、トローザ・ハント症候群(疑い)
として某大学の脳神経外科に紹介状を書きました。
この患者さんは、大学病院恐怖症のため、受診を渋っている間に、
左目痛のみならず激しい頭痛を来たし、再度来院されました。
必ず精密検査を受けることを条件に、副腎皮質ステロイドを少量投与しましたが、
大学病院受診の頃には、症状がかなり軽減してきたそうです。
最終診断:海綿状脈洞部の炎症性肉芽腫、およびそれによる
Tolosa-Hunt Syndrome(トローザ・ハント症候群)とのことでした。
後日譚:脳神経外科に定期受診中ですが、手術を免れ、
副腎皮質ステロイド剤のみの処方を受けているそうです。
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