プライマリケア・救急・心療内科Vol.5

今月のテーマ<中毒の特定内科診療>

 

「環境薬物中毒」No.5

 

 

「花粉症と喘息の薬をだしてください」とのことで来院された若い男性。

 

これまで大きな病気にかかったことはなく、

 

ご家族にもアレルギー体質の方はいないとのことでした。

 

 

最初は、鼻炎合併喘息を疑いましたが、

 

実は花粉症でもなく気管支喘息でもありませんでした。

 

 

それに気づいた切っ掛けは、彼が転職してからの職場環境が、

 

以前の職場環境(不動産の営業職)と激変したこと、

 

取り扱っている物質について具体的に注意を向けることができたからです。

 

 

発作性呼吸困難をきたすような明らかな原因が不明であり、

 

何らかの環境物質に暴露したことに関連して

 

症状が出現した可能性について検討してみました。

 

 

彼が業務上で取り扱っている材料はウレタンフォームの材質とのことでした。

 

ウレタンフォームは、ポリウレタン樹脂で、その樹脂の原料は

 

ジイソシアネートという刺激性のある物質です。

 

目の粘膜や気道粘膜刺激症状や喘息様症状を起こすことで知られています。

 

高濃度の吸入により、肺炎や肺水腫を来します。

 

 

低濃度の暴露では、約半年から1年ほどで、

 

喘息様発作を起こすものが表れ始めるので、

 

職業性喘息を起こす代表的な物質の一つとされています。

 

 

発症の状況から、ジイソシアネートの低濃度長期暴露が疑われました。

 

 

この若い男性の症状である鼻炎は花粉症によるものではなく、

 

また咳も喘息様発作を伴い、職業性喘息とされますが、

 

一般の喘息とは区別されなければなりません。

 

 

その旨をご本人に説明し、産業医宛の情報提供書をお渡ししたところ、

 

後日、職場の衛生管理者とともに来院されました。

 

 

取り扱っていた物質は、トルエンジイソシアネートで、

 

軟質ポリウレタンフォームの原料として使用していたことが再確認されました。

 

コーティングやエラストマーという製品を製造しているとのことでした。

 

 

本人は、ウレタン発砲作業現場から離れて、

 

営業事務担当の部署に配置転換することによって、

 

以前の症状は全く出現しなくなったそうです。