病的な水である(広義の)痰飲(たんいん)について説明を続けていきます。
(広義の)痰飲(たんいん)は4種類あり四飲と呼びますが、
前回までの(狭義の)痰飲、懸飲に引き続き、
今回は溢飲(いついん)について解説します。
<溢飲>は、体が重だるくなり、発汗作用が低下する状態です。
これは脾氣虚のため直接的に脾の運化作用が失調し、
間接的に肺の宣散作用が失調するために生じるものです。
これは、少し難しいので、段階を追って説明します。
まず脾の運化作用とは何か、です。
これは胃腸で消化された飲食物を、
氣 ( エネルギー)や、血に変えて心肺へ送り、
そこからから全身に運搬される一連の働きです。
飲食物は胃腸で消化されているにもかかわらず、
全身の組織や細胞に有効に行きわたらないため栄養源として代謝されない状態が、
脾の運化作用の失調です。
これは脾のエネルギー不足が原因と考えられるので、脾気虚と呼ぶのです。
脾気虚は、いわば「腑抜け(ふぬけ)」の状態で、
姿勢が悪く、息が浅く、気力・体力が乏しい状態です。
それは、姿勢保持・呼吸・運動のすべてに筋肉(特に骨格筋)が関与するのですが、
骨格筋の鍛錬不足で貧弱だと、
容易に脾気虚、つまり、「腑抜け」になってしまうのです。
次に肺の宣散作用とは何か、です。
これは呼気(吐き出す息)の気化作用を通じて
濁気(二酸化炭素や揮発性酸)を体外に排出することです。
息を吐くことはとても大切なのですが、
息を吐く働きは、息を吐き出す筋肉(呼気筋)の仕事です。
呼気筋の主役は腹壁筋群(腹筋)で、内肋間筋もある程度役割を果たします。
また、胸筋は肩が固定されていないと働きません。
安静時には呼気は受動的ですが、
運動時には吸気筋である横隔膜の運動の補助をします。
こうして、<溢飲>が脾氣虚のため直接的に脾の運化作用が失調し、
間接的に肺の宣散作用が失調するために生じる理由が説明できます。
骨格筋の鍛錬不足で説明ができます。
骨格筋が脆弱だと、四肢の筋肉は第二の心臓と呼ばれることもありますが、
筋肉が発達して活発な機能を発揮していれば、
特に静脈の血流が滞ることなく心臓へと灌流し、
それが腎臓や全身の皮下組織に及んで、排尿や発汗を促すことができます。
それが失調すると、体内の水をさばくことができなくなるため、
発汗作用が低下し、体が重だるくなります。
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対処法は、①正しい姿勢の保持、②正しい呼吸の維持、③正しい歩行の継続です。
これらを可能とする基本的な前提条件は骨格筋の量と質と機能です。
①正しい姿勢が保持できないと、②正しい呼吸の維持ができなくなります。
また、①正しい姿勢、と②正しい呼吸、によって
③正しい歩行の継続が可能となります。
水氣道においては、
親水三航法で①、②、③の基本に立ち戻り、
準備体操<イキイキ体操>で主に①と②を強化し、
標準五航法で①、②、③をさらに強化したうえで、
さらに高度な④上下肢の協調運動機能を訓練しています。
各種の応用航法、理氣航法、調血航法、活水航法および経絡航法は、
上記の全体共通のトレーニングをさらに専門的に補強・充実させる目的でおこなています。
本日のトピックスである<溢飲>タイプの方は、
水中にいるだけで、何もしなくても効果が得られます。
自覚できなくても発汗が促進され、利尿効果も生じるため、
特に下半身の水腫(むくみ)が改善し、
身体全体の重だるさは訓練早期に解消されることが多いです。
最終的には活水航法で鍛錬しますが、
筋肉が脆弱な方は調血航法、
それ以前に吐く息が浅い方は理氣航法から始めることが賢明です。